5月中旬。大連。
中心街のとあるビルの一室。
外のけたたましい音とは一転、
その広い部屋では、
パソコンを打ち込む音だけが響く。
驚くのは、その画面に移されたモノ。
それは…
塾で使用するテキストの文面。
日本語によるものであった。
大連視察報告が
物理的になかなか時間がとれず進まないので、
ここで一つだけ報告しておきたいと思う。
先日の大連視察では、
その躍動感あふれる光景に
いくつもの衝撃を受けたが、
今でも鮮明に印象に残っているのは、
この部屋で見たものだった。
広い部屋にはずらりとパソコンが並び、
その前に座っている人々が、
もくもくとそれぞれの作業をしている。
日本の塾のテキストのデータの
打ち込み作業をしている。
なぜ衝撃なのかといえば。
日本語に関係する作業を、
中国人が中国においてやっているから、である。
日本語のできる中国人が、
日本からの注文に応え、
打ち込み作業や組み版作業を行なっているのだ。
他にもスーパーのチラシや
住宅情報誌の間取り図の作成、
など各種の仕事を行っているという。
インターネット時代ならではの仕事である。
日本からの依頼はネットで来て、
中国で中国人が日本語を打ち込み組み版。
そのデータをネットで日本に送り返す。
データを分割して作成するなど、
セキュリティも配慮されている。
この仕事の手法や内容を見聞きした際。
率直に思い浮かべたのは、
「(日本で)身近なところで、
同種の仕事をしている人は、
皆、仕事を失う」
ということだった。
「何をいまさら」と思われるかもしれない。
もちろん、私も、ユニクロなど
中国で生産されている各種の製品について、
見聞きしている。
しかし、「当然に日本人が行っているはず」
と思っていたスーパーのチラシや塾のテキストまでを、
中国で中国人が作成していたとは。
意表を突かれた、という想いが
衝撃につながったのだろう。
人件費は約10倍の開きがあり、
安い労働力に裏打ちされ、
どんどん仕事が中国に流れ込む。
日本語に関することまで、中国人が担う。
この流れはどんどん加速している、
そんな印象を持った次第だ。
親日的な大連。
中国国内では、
先進的な取り組みを実験的に行う
「モデル地区のような場所」だと、
日本から来ていた企業の方に聞いた。
とすれば。
ここで起きていることは、
未来の先取りなのか。
相対的に日本の経済が被る
打撃の深刻さを肌で感じた。
グローバル経済の大きな波にのまれる中、
国造りはこうした隣国の状況にも目を配る必要がある。
大げさなのかもしれないが。
明治維新の原動力となった坂本竜馬や高杉晋作らが、
アヘン等により欧米に植民地化された
当時の中国の状況を上海で目の当たりにした、
こんな小説のエピソードを思い出した。
もう半月たつというのに、
危機感が頭から離れない。