• 「猫の手貸します」

年末も押し迫った日に行なわれたある会合。
お酒も手伝ってか、
参加者の気持ちも大きくなり、
和やかな雰囲気でそれぞれの近況報告が続く。
そして。
そろそろ約30人全員が交代で壇上に立つ、
という終盤に彼は登場した。
彼は20代中盤。
意欲を失い高校中退。
人生に悩み、流れ流れて東南アジアまで行ってきた。
その後、彼は様々な人との出会いを通じ、
今、心を開いて自らの主張を、
堂々と披露するまでに頼もしくなった。
その彼の主張。
「故郷の宮城に帰り、
 親父の後を継いで農家になります」
実家は米作農家。
その環境が嫌で飛び出したはずなのに、
結果的には、
親元を自己実現の場とすることとなった。
彼の主張は、農業の自由化にも及ぶ。
「守られている農業ではだめです。
 これからは自由化を見据えて
 自分の力でやっていかなければ」
と、すかさず。
「自由化はだめだ!」
端の方から、高齢の古い闘士のヤジが飛ぶ。
日本の農業に大きな打撃を与える、
という趣旨である。
その高齢の闘士の、
全共闘時代を思わせる大きな声に、
和やかな空気が一変。
酔いも醒めるほど会場は静まり返った。
固唾を飲んで若き農業者の対応を待つ。
今の日本の若者像では、
「草食系」という言葉に象徴されてしまうように、
ここでストップしてしまうのが常である。
うすら笑いを浮かべて、
もしくは困惑して誰かの助けを待つのが、
最近の若者の風潮だ。
が、しかし。
この若き農業者は、ひるまない。
毅然とした態度で、強い口調で、
目をひんむいて闘士に向かって言った。
「守られてはだめなんです。
 自由化は大いに結構」
世界に打って出なければならない。
将来のことを考えれば、
農家は戸別補償などに頼らずに
自分たちでやらなければならない。
そんな言葉を力強く放った。
割れんばかりの拍手。
高齢の闘士も彼の堂々たる態度に、
「あなたのような人がいれば大丈夫だ」
とお墨付きを与えた。
まるで自由民権運動の演説のようだ。
(見たことはないが…)
私も含め、政策関係者こそ、
こうした想いをくみ取るべきだろう。
こうした若手農業者がいるのである。
助けてほしいという人ばかりではない。
農業者に限らない。
若くして気迫に満ちた人たちが無数にいる。
もっとこうした人たちが浮かび上がり、
活躍することにより築かれる社会を展望したい。
そして、少なくとも、
こうした人たちの邪魔をしない社会としたい。
新しい日本の将来の兆しを、
この小さな会合で目の当たりにした。