• 「猫の手貸します」

私が委員長を務めている市民生活委員会では、11月10日から3日間にわたり5カ所の文化施設を視察した。建設が予定される「(仮称)岩槻人形会館」の着工前の調査に加え、現在稼働中の各種文化施設の運営などについても示唆を得た。この模様はすでに写真付きの報告で紹介している。以下、この視察で土井が得た着眼点。
5つの施設はいずれも成功していると評価されているにもかかわらず、どの施設でも異口同音に聞かれたのが「文化施設の運営は、どれだけ収益をあげても黒字にはならない」という指摘。欧米のような寄付文化のない日本では、運営は公の資金に頼らざるを得ず工夫が必要。市民に根を張った事業でなくてはならない、との指摘も、税金が投じられる場合、何より出資者の市民の理解なくして文化政策は進められないことを裏付けている。
ただ、この右肩下がりの時期に、赤字に甘んじていいわけではない。行政主導にありがちの、効率性や集客努力の欠ける運営は前時代的。集客増や外からの収益の努力とともに、周辺商店街などとの連携策を進め、波及効果をもたらす施設を模索するべき。収蔵品の確保は財政難で、どこも困難に直面している。できる範囲でコツコツやるのが現在の姿だ。
施設建設ありきではない点も、特筆すべき点。まず有識者をを集めて、自治体がリーダーシップをとり、ソフトを固めてから施設建設のハードに段階を踏んでいくことが大切。21世紀美術館は現代美術専門の学芸員を、音楽堂は故・岩城宏之氏を、それぞれ真っ先に迎えている。魂を持ってから仏を作る、といったところ。仏を作って魂入れずではいけない。
館内については、単なる展示だけではなく、産業技術記念館の体験コーナーの充実など、そこに行った者が完成を揺さぶられる仕掛けも一つの方法だろうし、京都国際マンガミュージアムのように、常に来館者の意向に合わせて変化していくものもある。
以上、示唆を得たが、何より、やるならばプロの担い手を呼んできてやるなど本気で取り組むべきで、そうでなければ足を踏み出すべきではない、ということ。音楽堂は投資は莫大だが、その効果も絶大で、世界的で独自のアンサンブルの存在は金沢の代名詞である。当たり前だが、どんな施設でも、何のためにやるのか、という動機と、その成果を踏まえた説明、それによる市民の深い理解が問われるのだろう。
【訪問場所】
●21世紀美術館(金沢市)
年間150人の来館者。美術館成功の象徴。中心市街地活性化策として推進された。指定管理者による運営。プールの中側から見上げることのできるプールは有名。周辺商店街との連携を深めている。
●石川県立音楽堂(石川県・金沢市)
オーケストラアンサンブル金沢の初代音楽監督は、世界的演奏家の故・岩城宏之、次監督は井上道義。厳しい聴衆のいる欧米で認知されるほどのレベルとなった。現在黒字運営だが、もしもの時のために、基金に積んでいる。
●京都国際マンガミュージアム(京都市)
小学校の廃校を利用。博物館であるとともに、研究期間でもある。京都精華大との連携で、市が建設し、運営は大学が担っている。
●徳川美術館(名古屋市)
ここは民間(財団)の運営。公的機関からの補助金は一切ない。収蔵品は随一の徳川家の所有物。しかし、施設のメンテナンスに多額の財政支出を要する。計画的にメンテナンスしている。目標は年間25万人の集客で、旅行会社へのPRなど取り組みをしている。
●産業技術記念館(名古屋市)
トヨタグループが出資し、運営している。紡績時代から現在の自動車までの変遷の展示、実演・体験のできるコーナーの設置など、館内は来館者の満足度に応えようという雰囲気に満ちている。愛知万博で知名度を上げ、今や25万人が来館している。ますます来館者が増えると実感した。