• 「猫の手貸します」

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滋賀県野洲(やす)市に、市民生活委員会の視察で訪問した。私が委員長を務めている当委員会では、一年間にわたる調査・研究として、「消費者行政」をテーマとしている。野洲市。消費者行政の中でも、多重債務への取組みについては、あまりにも有名であり、月刊ガバナンスなどにも取り上げられている。

今回、野洲市で調査をしたのは、以下の点。
●市民生活相談室の機能
●多重債務問題への取組
 ①消費者問題
 ②庁内外との連携
●相談員の役割と現状についてである。

当初の予定を20分も過ぎるほど熱のこもった視察となった。その要因は、「スーパー相談員」と異名をとる生水(しょうず)裕美氏による話。生水氏からは、相談員の現状から消費者行政の抱える国ぐるみの課題まで、幅広く、そして深く話を聞かせていただいた。その話し方は息継ぎをしていないのあようである。他を圧倒する迫力と、相談者に徹底して親身に寄り添う姿勢。この話を聞く私たち委員会の委員も、真剣勝負の姿勢で臨み、お互いのやり取りは予定時間を大幅にオーバーするに至ったものである。

詳細については、後ほど委員会の報告としてまとめられるが、印象に残った点をいくつかここに記しておきたい。

まず、野洲市の相談は、相談を法律の専門家に預けて終了ではない。相談者が生活再建を果たすまで、寄り添って親身に相談に応じていくという試みである。繰り返すが、相談者が日常生活を取り戻すまで、である。そのためには、消費者相談の担当室だけでは対応できないわけで、他の税や国民健康保険・公共料金・住宅・就労などの幅広い所管の関係者の連携が密にとられていなければならない。

この問題、さらには貧困からの脱出について、来週、全庁の職員に対し、第二回目の研修が行なわれるという。全庁的な協力体制を得ることができることが何よりの強みである。消費者相談担当以外にも、実はメリットはある。それまで滞納されていた税などの公共料金は、相談者が消費者金融再度より過払い金を取り戻すことにより、滞納分を納付してもらう可能性が高まるのである。多重債務者の解決は、庁内全体に効果をもたらす。

視察中、最も印象深いやり取りは、以下の件だ。「何%が生活再建を果たすのか」と私たちの委員から質問が出る。生水さんが言う。「すべての人に対し、生活再建ができるまで、すっと対応します」。つまりあらゆる手を尽くし、その相談者の生活再建に寄り添う。各種のセーフティネット、小口資金などをふんだんに活用し、また過払い金を取り戻して、相談者の生活再建に尽力する。

野洲市では、相談窓口を一元化した。「市民生活相談室」が市役所一階の左置くに設置されている。私たちが訪問した際も、車椅子に乗った高齢の女性が窓口を訪問していた。今回一緒に同行してくれていた室長が、すかさずその人に声をかける。相談窓口は、疲れきった相談者がすぐに相談でき、迅速に対応をしてくれなければ、存在する意味はないだろう。現に存在していても、二度と相談しなくなってしまう。相談員が徹底して生活再建まで寄り添ってくれるならば、相談者は少しづつ心を開いていく。

全体の相談の3分の1を占める多重債務関係の相談。これはこれまでの掘り起こしの成果ともいえる。早い段階で掘り起こしをし、相談員や弁護士、その他の関係者が、その相談者の必要に応じて、話を進め、問題の解決に当たるのである。生水さんは大切な優先順位として、住宅と雇用を挙げた。その確保が生活再建には、まずは欠かせないという。

ただ、現状で最も大きな課題は「雇用機会がない」ことだ。これが多重債務に拍車を欠ける。相談者が正規職員だと「ホッとする」と語る生水さん。自治体の努力だけではいかんともしがたい大きな課題だ。貧困問題の大きな壁は、「雇用機会」であり、その機会を増やす戦略が政治には求められる。民主党政権が国家戦略本部を通じて成長戦略を提示する、ということなので、注目したい。

野洲市の現在の相談員は2名。全国の状況を見ると、現状では、各自治体の財政状況で配置が決まっている。これでは現場の相談員に過重労働を強いてしまう。生水さんは、「国が動くべきだ」と明快に言う。財政的裏づけと配置基準を示すべき、という。相談員の待遇面以上に、正規職員化することによる「権限の付与」のメリットを生水さんは強調していた。庁内でも対外的にも、非常勤職員時代よりも大きく可能性が広がったという。

これらを総合すると、国で整備すべき点は、現場から多々見られること。これについては、各自治体ごとに声を上げていく必要があるだろう。さいたま市でも、さいたま市の相談員らの意見を加味して、当委員会や会派を通じ、行動していきたい。そして、自治体の努力でできることはそれぞれで行なうこと。特に多重債務者を掘り起こすことは、傷口が広がる前の治療につながるもので、大切な視点だ。これは単に「新たな仕事が増える」のではなく、滞納の解決など、それぞれにメリットがある点も忘れてはならない。

印象に残ったのは以上だ。120万都市の自治体が、人口5万人の自治体に視察に行く。一見、釣り合わないように見えるかも知れない。しかし、私は消費者行政の調査に関する視察先として、訪問してみて、改めて野洲市は視察先として適切であったと実感した。ここには記すことのできない個々の事例も聞くことができ、今度の調査に大きく役立つこととなるだろう。

とにかく。全庁的に、貧困状態に陥っている相談者は、生活再建に至るまで寄り添って解決していく。この姿勢に、今後の行政の行くべき方向性の一端を見出すことができた。