• 「猫の手貸します」

この日は9時30分に始動。
全日、足を使った強硬な日程であった。

この日、夜中2時に目が覚め、
せっかくだからと
これまでの視察の資料に目を通したり、
議会関係の仕事もこなした。
時間は刻々とすぎ、集合時間に。
ところがそれが裏目に出た。

この日は最長距離歩行。
約30分間のブルックリン橋歩行を始め、
地下鉄での移動、ブルックリン外の散策。
タクシーは使わず、
足を使っての、安くて健康的な視察である。
健脚の青山先生ならではのスケジュールである。

しかし寝不足の私の体は、
やがて思考停止装置を起動させたのだった。
そして夜の食事中に居眠りをしてしまう、
という失態を犯してしまったのである。
飲みものが「バシャン」とこぼれてズボンに…。

■都心居住者へのヒアリング
午前中はニューヨークに住んでいる方からのヒアリング。

マンハッタンに、
マンションの一室を保有している米国人に聞く。
セントラルパークの全貌を一望できる場所に、
その高層マンションはある。
その44階(最上階は56階)。

見事な眺望には、言葉も出ない。
遠くには、イーストリバー、ハドソンリバーも垣間見える。
米国芸能人も住むこのマンションには、
会議室やスポーツジムも完備している。

なぜここを選んだのかと言えば、
理由は眺望だけではないと言う。
この方は弁護士をしているが、
このマンションは、
マンハッタンの中央部に位置し、
地下鉄・バスなどの利用にも便利で、
どこへでも行くことができるという。
この利便性が何よりだそうだ。

日本でいう組合のようなものがあり、
居住者で出資している。
スポーツジムの管理などを任せているが、
トラブルは結構あるようだ。
たとえばプールの温度について、
ある住民は「高すぎる」そしてある住民は「低い」…。

現在の問題としては、
周囲に次々と同程度の高さの
マンションが立ちつつあり、
景観が悪くなってきていること。
当然マンション建設に反対という声が上がる。
以前見えていた川も見える範囲が狭くなったし、
以前ワールドトレードセンターも見えていたが、
今はその方面は大きなビルが建ち、
見えなくなってしまったそうだ。

この点は日本と同じであるが、
マンション建設反対の根拠として
「古い建築物の維持」という視点があるのは特徴的だ。
つまり古い建物を破壊するような増築はだめだ、
というものである。

ニューヨーク市内を歩くと、
驚くほどの歴史的建造物を目にする。
東京駅の丸の内周辺のビル群を
広範囲に拡大したようなイメージ。
散歩するだけで胸が躍るような気分となる。

今回の視察では、
この古い建築物の維持についての
米国の価値観や制度を学ぶ機会はなかったが、
住む者だけではなく訪問者をも惹きつける街の景観は、
大変興味深い。行ってみて初めて実感した次第である。

■グランド・ゼロ
地下鉄で移動し、「グランド・ゼロ」へ。

言うまでもなく、
2001年9月11日のテロ事件の現場である。
ワールドトレードセンターのあったその現場には、
多くの観光客が足を運んでいた。

私の個人的な印象では、
大きく開いたコンクリートの穴が痛々しかった。
現在、この一部で建設工事が進められている。
時間とともに現在とは異なる光景となるのだろう。

周囲には高層のビルが立ち並ぶ。
あの事件を思い出しながら眺めた。

あの時、私はコンビ二・アルバイトの最中だった。
レジを打っていると、
お客さんが「知ってる? 飛行機が突っ込んだんだよ!」
と話しかけてきた。
この人は変わった人か、
何か勘違いしているのだろう、
と思っていたら、
実際に世界を震撼させる事件が発生していたのである。
仕事帰りにテレビに釘付けとなったことを思い出した。

■小さな公園
グランドゼロを後にして、市庁舎方向に歩く。
その途中、小さな公園があった。

中央には噴水があり、木や草など緑が豊富だ。
土曜日と言うこともあり、
人が多く出ており、コンサートが開かれていた。
驚いたのはリスがいたことだ。
あまりに人懐こいことから、
おそらくそのリスはこの公園の利用者たちに
大切にされているのだろう。

面積は比較的小さいが、質の高い公園だった。

■ブルックリン橋
ブルックリン橋を歩いて渡る。

市庁舎を背にし、ペイス大学を右手に見て歩行開始。
最終的に約30分かかったが、
同行者一同、まったく疲れることもなく、
その景観を堪能しながら歩いた。

歩くのがまったく苦でないのは、
歩行者の気持ちの問題だけではないような気がする。
歩道が中央に位置し、車道がその両サイドにあるが、
歩道は一段高く作ってあり、
歩行者の視点を優先しているように見えるのである。

公共性の高いインフラに、
そこを歩く人の視点を組み入れている典型なのでは?
と考えた。

この橋ができたのは1883年。
ブルックリンタワーを見ると、
確かに歴史を感じさせる。

■ブルックリン市街地
橋を下り、市街地に入る。
5分ほど歩いてすぐに公園が見えてきた。
静かで枯葉の落ちる清楚な空間を通ると心が落ち着く。

この公園に限らず、
マンハッタンから橋を渡ると、
ここブルックリンは別世界が広がっているようだ。
先ほどの喧騒が嘘のように、
静かでゆっくりとした時間が広がっているのである。

コロンブス公園に行くと、
市場が開かれていた。そこでトマトを試食。
歴史的建築物に囲まれ、ゆっくりとした時間が流れる。

歩いても歩いても歴史的建造物。
歩くのが本当に苦にならない街だった。
個人的には、
マンハッタンの騒がしさも嫌いではないが、
こちらの大人の街の雰囲気に大きな魅力を感じる。

ベッドタウンを特徴とするさいたま市。
今後のまちづくりにおいては、
ブルックリンのような街が、
一つの参考になるのかもしれない。

■交通博物館
ブルックリン橋から約20分くらい歩いて到着。

地下鉄の旧駅を利用した交通博物館は、
様々な演出を凝らしており、飽きないつくりだった。

特に私たちが行った時に
子どもがはしゃいで遊んでいたが、
そんな雰囲気のある博物館は魅力的に写った。

日本では、上野にあった鉄道博物館が、
さいたま市に移転することになっている。
来年から開業する予定だ。
持ち主はJRだが、
さいたま市も周辺整備などで協力している。

訪問客の満足度の高い博物館となればと思う。

■ブルックリン美術館
地下鉄で移動し、美術館へ。

この展示物の中で、
私はアジアの展示を集中してみた。
日本人の作品がある。

美しい花瓶が目に留まった。
作者名を忘れてしまったが、
「カワセ」さんという方だったと思う。
作者はどんな気持ちでこれを創ったのだろうか。
そしてこれを見た人たちは、
どんなことを思うのだろうか。

外国に出るということは、
日本人のことを客観的に見る機会でもある
ことを改めて認識した。

美術館をでると、黒人の人たちが集まり、
結婚式?かそのお披露目式を行っている様子。
花嫁を中心ににぎやかだった。
こうした光景も違和感のないところがいい。