• 「猫の手貸します」

■『時代の証言者 漫画』
■水木しげる/やなせたかし著 読売新聞社

ゲゲゲの鬼太郎」の作者:水木しげる
アンパンマン」の作者:やなせたかし
の両漫画家が、
読売新聞社のインタビューに
答える形で記されたのが本著。
新聞連載の後、加筆された。

水木しげる氏の漫画は、
私も子どもの頃から馴染み深い。

好きなことしかやらない
『水木さんのルール』を変えられない。
このような人生を生きている氏。

戦争時にもかかわらず、
「生きて虜囚の辱めを受けず」という戦陣訓の示達の中、
「生きるつもり」で「軍律」そっちのけで、
「できるかぎり食べて寝」たそうだ。

当然の如く、
熱帯の島で上官によく殴られたと言う。
爆撃が原因で、左腕も失っている。

敵情報告をしに基地に帰ったら、
上官に「なぜお前だけ逃げて来た」
「次は真っ先に死ね」と言われたそうだ。
「日本軍とは何なのかわからなく」なったという。

戦後、食べるために悪戦苦闘した末に、
漫画家になる。
その流れの先に「ゲゲゲの鬼太郎」がある。

「好きなことなら相当なことができる」
「嫌いなことでは怠け者にならならないといかん」
「幸せの方向をちゃんとつかんで、
 階段を上がるようにしないといかん」
「一人一人が幸福のためにルールを持つべき」
「人間は幸せになるために生まれた」

など本著でメッセージを寄せている。

氏が経験したことは、
それぞれが簡単に語ることのできない類のものだ。
それをあっさりとのんびりと、
悲壮感なく語っているところが面白い。

氏は、「怠け者」を
決して悪いことだと思っていない。

戦前・戦中・戦後…ある意味では、
明治時代に国民国家ができて以来、
先進国に追いつくために、
様々なことを犠牲にして、
必死に生きてきたのが日本だった。

しかし経済的豊かさを一定程度実現した今、
経済にとらわれない「成熟」「豊かさ」
を志向するこれからの社会にこそ、
氏の言葉は貴重な宝物として受け取りたい。

私の心に大きく響いた。

やなせたかし氏の漫画は、
少し時期がずれ、私は接していないが、
「ドラエモン」と並んで
子どもたちに夢を与えたのだろうと思う。

氏は、「机にかじりついていても
いいデザイナーにはなれない」といわれ、
銀座に毎日通ったという。

氏は
「天才として後世に残るよりも、
 まず社会人として誰にでも好かれるほうが先」
との考えを示している。