• 「猫の手貸します」

移動中にラジオを聞いていたら、恥ずかしながら、吹き出してしまった。バスの乗客一同に、どう思われたのだろう。いささかはじかしい。そのエピソードを、土井のアレンジで以下に。

とある中年女性の話。この女性の仕事・介護のヘルパーに関するエピソードだ。

仲間のヘルパーから、連絡が来た。「あなたがこれから担当するお爺さんは、怒鳴る人なんですって」。

続いて出た言葉が、これから仕事に向かおうとするこの中年女性に、救いの手を差し延べた。

「でもね、お爺さんは軍人だった人で、軍隊の話をすると、機嫌が良くなるんだって」

さて、この女性、お爺さん宅に向かう。

何と!玄関に立っているではないか!そのお爺さんが!腕組みをして仁王立ちをしている。想像通りの恐い顔立ち。流れる冷や汗。

意を決して、一歩踏み出る。

「こんにちは!中隊長どの!」

恥も外聞もなく、敬礼しながら言葉が口から出てきた。

次の瞬間。その男性からは衝撃的な言葉。

「ああヘルパーさんですか。親父なら中にいます」

「…」

玄関前にいたのは息子さんだった。恥ずかしい。しかし振り上げた手は、簡単には降ろせない。

程なくして、幸いなことに、その言葉を聞いたお爺さんが中から出てきた。

行き場を失った、女性の敬礼の手が、いよいよ意味を持つ瞬間が来た。

「こんにちは!中隊長どの!」
再度、この言葉を繰り返す。

すると…

「私は伍長ですが…」

話は以上。

世の中、面白い話があふれているが、何よりこうした現場の話が面白い。当事者の息遣いが聞こえて来るようだ。