エピソードIN選挙
2007年4月に行なわれたさいたま市議会議員選挙
の回想も今回が最終回。
今回は選挙期間中のエピソードをお伝えします。
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■突然、ドアの向こうに…
■選挙カーの駐車場の件
ある晴れた日。
事務所のガラス張りの入り口ドアの向こう側。
1人の杖をついたおじいさんが立っていた。
そして何事かを言っている。
ドアを開けると、
「道路に車を止めてるでしょ」
と選挙カーを指して言う。
ああ!近所の方からの苦情か!
早く対応しなければ…
と思った瞬間、
おじいさんの口から出た言葉は、
思いがけないものだった。
「私の駐車場があいているから。
ただで貸してあげるから。
応援してますよ」
おじいさんは事務所向かいの家に住んでいる。
横断歩道を歩いて渡ることもままならない。
なのに事務所にきて、
わざわざ駐車場を貸してくださると言う。
思いもかけない、おじいさんの言葉に、
横にいた妻の目に涙があふれていた。
■マイクを握り、そして放さない人々
■全員参加の選挙
私の選挙は異質だ、と思う。
来た人になるべくマイクを回すのだ。
候補者だけでもなく、話しなれている弁士だけでもない。
3度勧めて断わる方にはそれ以上無理に勧めないが、
原則的には駅や街頭での演説は、
そこに立ち会うすべての方に話してもらう。
これには、
●参加者が自分の選挙でもあると認識してくれる
●私の思いもよらない思わぬ言葉が飛び出す
●聴く方々が、素人集団の発言に意外性を感じ、耳を傾ける
といった効果が期待できる。
歩いている人たちも聴いている。
そして皆、判断している。
耳障りのいい言葉や、
雇われた人たちから発せられる
「うまい」言葉には飽きているのではないかと思っている。
私自身が、
他の候補者の選挙を応援した際、
退屈するときがあったのが、
このスタイルの発端だ。
慣れた口調で候補者を「よいしょ」するよりも、
むしろ候補者を含めて現職の議員に厳しい発言のほうが、
無党派層には響く時が多々ある。
私にとっては、
私を含めた候補者を叱咤激励する言葉こそ大歓迎だった。
また、こうしてマイクを握った経験のない人たちが握ることで、
それぞれが成長し、
人に伝える喜びを感じることができるようになる。
最初は10秒話すのがやっとだった人も、
最後にはマイクを放さない。
時には候補者の私を差し置いて、
ながーく話し続けるつわ者もいた。
これが私が選挙をやってきて最も面白い点である。
この点では、この選挙を通じて、
お互いに成長する機会を得ることができたのではないか。
■一週間の泊り込み
■ある学生の物語
「土井さん、明日から一週間泊り込みます」
ある学生(といっても大学院生)の突然の決意。
選挙の直前。一週間前である。
「おい、大丈夫なのか?」と聞く。
就職活動の真っ最中だったのだ。
「大丈夫です。就活では得られないものがあると思いますから」。
思えば、私も無手勝流だったが、
机の上の勉強よりも飛び込んで経験したほうが、
後々の役に立つことが多かった。
「よし。じゃあ頼む」とエラソ-に伝えた。
そして次の日から一週間、
彼は本当に泊り込んだ。
もちろん無報酬である。
朝は駅立ち。
日中は、
事務所の整理の手伝い。
公選はがきの宛名書き。
その他雑用。
夜はまた駅立ち。
朝から晩まで、一日中の作業である。
一週間。7日間。
普段は味わうことのない経験を、
味わったのだろう。
ある日の朝。
私はマイクを彼に渡した。
そして勝手にいなくなった。
「コーヒーでも買ってきてやろう」
そんなことを考え、
5分後にコーヒーを持って彼の姿を見ると、
その向かいにおばあさんが…。
彼の発言を熱心に聴いている。
そして彼がマイクを放したとき、
そのおばあさんが彼に話しかけた。
いい話だったと受け止められたのだ。
私でもほとんどない経験。
人の足を演説で止めるというのは、至難の業だ。
かれはそれをやってのけた。
この経験は相当な自信につながるだろう。
人間誰しも、
自分の言葉を受け止めてもらう
ことほどうれしいことはない。
寝坊もあったが、一週間よくがんばりました。
■雷雨に見舞われた日
■元気印も無口に
元気印のS氏のエピソード。
自転車に宣伝カーという組み合わせの一行が
出発しようとしたちょうどその時。
彼は車でやってきた。
慰留したが、体育会系らしく、
「自転車乗ります!」との一言。
われわれの一行に加わった。
後に悲劇が訪れることも知らずに…。
「土井裕之を、お願いしま〜す!!」。
彼の声はことさら大きい。
選挙をするために生まれてきた男のようだ。
しかし、この時。
雲行きが怪しくなってきていた。
でも雨具も持ってきてあるし、
雨の中を自転車で走ることこそ、
アピール度は高まる。
そのまま突き進んでいると、
やがて土砂降り。
さらには雷が…。
とどめは「雹(ひょう)」!(うひょう!←失礼しました)
「い、痛い…」とうめき声を上げながらも、
私を先頭にした一行は、
それでもまだ前へ進んだ。
前へ前へ…明大ラグビー部の精神ではないか。
しかし、雨脚は衰えず、
一旦は雨宿りへ。
雨宿りはとあるお店の軒下。
すっかり元気印のS氏は無口になっていた。
この時の壮絶な天候を物語っていた。
かくしてスーツ姿S氏は、ずぶぬれとなった。
あと3分。
事務所に来る時間が遅れていたら、
こんな目に遭わなかったのに…。
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今回の選挙もまた、喜怒哀楽の入り混じったものでした。