• 「猫の手貸します」

前回の歯治療体験に引き続き、
私的な生活を記す「番外編」です。
興味のない方は、飛ばしてください。

  ★  ★  ★

昨日午後、再び歯医者に行きました。

第2ラウンド。
前回は痛みを感じる場面はなかった。
この歯医者はさすがでした。
しかし、気を抜いてはいません。
本当の勝負はこの日だからです。

さて、まず昨日の治療の前に、
前回の治療後の経過についてですが、
銀の詰め物が取れた部分に
臨時の蓋をしました。
痛み止めの薬も塗ったようで、
しばらくは痛みはありませんでした。

ところが、一週間前くらいからでしょうか。
昼食を食べていると、
以前にもまして痛みが…ズキン!
左顔から頭にかけて、
この痛みが走るようになりました。
冷たいものを飲むと、
当然激痛に近く沁みました。

周囲からは、
緊急に病院に行くように強く諭されました。
しかしわたくし、
予定の日までは「とにかく我慢です」
と、かたくなな姿勢を持ち続けました。
本当に偏屈ですね。

そしていよいよの朝。
6時間の充分な睡眠をとりましたが、
朝からジンジンと痛みが頭まで到達しています。

午前中は資料の整理に時間を費やし、
早い昼食後、
風呂で身(もちろん歯も)を清めました。
この日は寒かった。

新聞を読んでも本や資料を読んでも、
痛みが先行し、
なかなか頭に入らないといった状況。

午後、いざ出陣。
頭がボーとする中、
車で闘いの現場に向かったのであります。

  ★  ★  ★

約束時間の少し前に歯科医院に到着。

ガラス張りの入口を入ると、
前回同様、さわやかな音楽が流れています。

半円形に長く伸びたソファには、
すでに5名の患者が座っていました。
見事に均等な位置で。

ただ、心做しか、皆様のお顔の表情が、
強張っている様にも見受けられます。
コ、これは…(汗)(汗)。
今、考えますれば、
この日に起きることを、
暗示していたのかもしれません。

待合の椅子に座っていると、
先客が点呼されましたが、
「4階へどうぞ」
と促されているのには少し動揺しました。

と言いますのは、
3階のみが医院だとばかり
思い込んでいたもので、
想定外のことが起きたからです。
4階はどうなっているのダロウカ…。
目に見えないものは気になるものです。

何とか気持ちを落ち着かせるべく、
椅子に座ってから間もなく、
(ほんとに「間もなく」でした)
心の準備もできないまま、
私の名が点呼されました。
心臓の鼓動は少し早くなりました。

助手らしき女性に導かれ、
奥の部屋に通されました。
3階だったのは少し安心しました。

  ★  ★  ★

さて、椅子に座ると、
前回と同じ若手女医が、
やさしく語りかけてきました。
「いかがですか」。

私は「ここ数日間痛みがあります」
と少年のように近況を正直に語りました。

担当医の話では
「やはり神経にまで虫歯が達していますね。
 神経を取り除きますので」
反論の余地はありません。
「はい」

ウウィイイイイーン
椅子は地面と平行に倒され、
目を光りから防護するためのタオルがかけられて、
治療開始です。

まずは前回の詰め物を取り除く作業。
水噴射の独特のあの音です。
シュイイイイイイ〜ンン
ズズズzzzzz〜
削りと吸い取りが交互に行なわれていきます。

この時まで痛みはありません。
嗚呼有難い事ダ…
治療は「うがい」の機会なく、
次の段階に移りました。

詰め物が取り除かれたようで、
歯の周りが軽くなった感覚。
その分、痛みの幹部、
もとい患部に近づいているようです。

麻酔の注射が打たれました。
チクッときましたが、
これは痛みはありません。

「それでは歯のお掃除をしますね」
との担当医の声。
相変わらずの優しい声でしたが、
次の声に緊張が走りました。
「痛かったら左手を挙げてくださいね」

え、え?
なぜ左手なのですか?
右手ではいけないのでしょうか?
などと考える余裕もなく、
そして忌まわしい過去の記憶を思い出す間もなく、
本格的に削る作業がはじまりました。

器具を見ることはできませんでしたが、
ヤスリがけをするような感触。
時々「ピー」という小さい音が鳴ります。

私は確実に近づく痛みの瞬間に備え、
手を胸の前に組みました。
「この手は、どんなことがあっても離すまい」
硬く握り締めました。
自身のプライドをかけた闘いです。

ジョリジョリピージョリジョリピー…
そしてやがて、頭のほうにまで響くような
痛みが襲ってまいりました。

ジョリピー…うがうがピー(内面の声)
何度か痛みの山が…。
脳髄を直接タワシで擦られているような感触。
というと言い過ぎでしょうか。

うがうがピー(再び内面の声)
そんな繰り返しも、
やがて終わりを告げました。
人生で一番痛く、冷や汗をかいた
「お掃除」だったことは言うまでもありません。

「はい。今日は終わりです」
「うがいをしてください」
と促された時、
私の体はおなかを最上部にし、
逆弓なりとなるとともに、
足の指はバレリーナのようにぴんと伸び、
そして胸の前で組んでいた手は、
指がそれぞれスクッと伸びており、
綾取りをしてる時のようでした。

私の内面をさらけ出していました。
担当医はどう感じたでしょうか。
恥ずかしい限りでした。

「神経をお取りしましたからね」
と担当医が言ったように聞こえたのですが、
聞き間違えたのかもしれません。

その部分のレントゲンを見せてもらうと、
歯の根を固定するための芯が、
見事に2本埋め込まれているのが見えました。

これで終わったのだろう、と思った矢先、
歯の拡大写真を見せられました。
歯の奥にはさらなる黒い部位が…。
「次回はこの奥のほうのお掃除をしますね」
え?えー?なんとまたお掃除と!?
この言葉の意味を、
今もって私は理解ができていません。

「硬いものを左の歯で噛まないで下さいね」
という言葉を最後に、
痛み止めの薬を3錠渡され、
この日の治療が終わりました。

医院を後にしても、
しばらくは左のほっぺたがシビれていました。
麻酔のせいですね。
しかしこの麻酔には感謝しなければなりません。

夜、麻酔が切れた頃には
ズキズキと痛みが襲ってきました。
治療時には私を痛みから
守ってくれていたのですね。

麻酔のない時代の手術とは、
どんなだったのだろう。
思いを馳せるところです。

治療の次の日、
「うがい」に冷たい水を含んでも、
沁みることは無くなりました。
噛む際の痛みはまだあるため、
完全回復ではありませんが、
時間の経過とともに
徐々に回復しつつあります。

やはり治療の必要はある、
というのが実感です。

しかし次回も「お掃除」とは?
今回と同様の痛みを
経験しなくてはならないのか?
どうなる次回!!

こんな文章に、
こんなにスペースを割いてしまいました。
最後までお読みいただき恐縮しています。