「民意」にはいろいろある。
メディアの世論調査もその一つだ。
またその都度お会いする方々の、
直接間接の声も民意である。
それらも大いに参考にするが、
私にとっては、もっとも身近で参考にしている民意が
家族・親族の何げない言動である。
そこにはストレートな意思が込められているからである。
ただ、私の母親はすでに、
私の選挙に関わるなどしているから、
数年前から「政治係って」いる。
ニュースもよく見ているようで、
頻繁に評論家のような口調が耳に入るから、
もはや特殊な民意の領域に入っているのだろう。
だから母の言葉は、
素直に民意というには注意が必要である。
一方、私の祖母。
母の母である。
すでに90歳を超え、半ばに差し掛かっている。
今でも毎日畑に出ていて、健康そのものだ。
数年前など、骨折して入院。
ふつうはそのまま寝たきりになってもおかしくなにのに、
入院二日目からは歩きだし、
やがて日常に戻っていくような気迫の塊である。
やや耳は遠いものの、
話すほうも聞くほうも何ら問題ない。
が、政治とは遠い位置にいる。
「政治に関わる人は大変だあ」
「○○さんから勧められたからなあ」
といった、どちらかといえば依存型・消極型の典型で、
だからこそ、ここに純粋な民意がある、
と私は、いつもその祖母の言葉に気に留めていた。
決して強い批判めいたことは聞いたことがなかった。
しかし、ついに荒くなった。
その祖母の言葉が、である。
「もおう、今の政治家は自分のことべい(ばかり)だ。だらしねえ、ほんとによう」
ある親族で集まった昼食の会食の最中。
誰か目の前の人を叱責するかのような、
荒々しい口調であった。
最近の政治情勢を、感覚的に表した言葉であった。
会食で臨席していた周囲の親族は、
滅多にない祖母の言葉に驚きもあったのだろう。
「そうだよなあ」
という相槌がでた。
「そうですねえ、民主も自民も本当にだらしない…」
私はそう言いかけて、ふと言葉を発することを止めた。
「あんたも政治家だろう」
誰に言われる言葉でもなく、
自分の中の自分が語りかけてくる。
人のせいにすることを
政治の一端にいる私がやっていたら、
それは自らを批判していることと同じことだ。
今の政治のだらしなさは、
回り回って自分自身に帰ってくる話なのだ。
「申し訳ない…」
瞬時に、結局は私はそのように返した。
周囲は笑いに包まれた。
私がいつものリップサービスで
発した冗談による言葉だと思われたのだろう。
が、私は心中、真剣さ半分で、
その言葉を発したつもりだ。
とにかく。
祖母の言葉はまぎれもなく、「民意」だろう。
いよいよ社会の隅々までが、
こうした民意に埋め尽くされた、
と見ていいのだろう。
誰が政権を担当しているかは分からなくとも、
政治の詳しい流れは把握していなくとも、
今の政治がだらしなく、
政治家が自分のために、
つまりは次の選挙のために政治をやっている、
と見られているのである。
政治の信頼は、本当に地に落ちたのだ。
もはや「民主が、自民が」というレベルではない。
「追いつけ」のキャッチアップの時代は過ぎ去った。
はっきりとした答えのないこの成熟時代、
多様な意見が飛び交う中で、政治の在り方もすっきりしない。
政治の渦中において、
その困難さは、私自身も実感しているところだ。
ただ、それを言い訳にし、誰かのせいにして
課題解決を先送りしてきた政治家の姿勢こそが、
国民的信頼の失墜、
という民意の発露につながっているのだろう。
今回、大いに考えさせられた。
確かに。
最近の国政の消費税増税、社会保障一体改革の
3党合意の経緯は、選挙制度の改革の議論も含めて、
まさに党利党略、議員のための議論に終始、
と見える。
何の哲学も、大義も感じない。
危機を間近に控える日本の国の、
今後の進路に責任を背負うという気概は到底見えない。
賛成派と反対派の勢力争い、
にしか見えないのである。
消費税の増税の筋道は、
やはり自らの身を削ることからだ。
税をさらに負担しなければならないほど危機的状況なら、
歳出も一定の枠をかけ、
削減努力に真剣に取り組まなければならない。
凍結していた公共事業を、
のんきに再開などしている場合ではないはずだ。
社会保障の将来の全体像が展望でき、
国民はどのくらいの負担をすれば安定した生活を営むことが可能なのか。
増税は、こうした議論の次に来る話だろう。
この道筋を外していることに、
大きな違和感と憤りを感じている。
それを解消するために、
先程記した通り、政治に身を置く私は、
私なりの方法で責任を果たしていきたい。
どんな方法であれ、
根底には私も当事者であることを肝に銘じたい。
人のせいにするのはやめよう。
目の前の政治がおかしいならば、
いい政治に変えるまでである。
そのために自分の持てるエネルギーを注ぎたい。
真に国民が試される選挙が近づいている。